【スタッフ日記】ギターのレリック(エイジド)加工
みなさまこんにちは、安ちゃんです。
前回同様、マニアックなギター談議が続きます。。。
前回、新しいギターをヴィンテージ色に塗り替える作業についてご紹介しました。
ワタクシにとって、あの様な作業はまだまだ序の口です。
ギター業界では、特定のギターに関して、古ければ古いほど価値があるというヴィンテージギターが存在するというお話は何度かご紹介しました。
それらのギターは数千万円~数億円まで、庶民ではとても手の届かない金額となっています。
古いギターは当然経年でボロボロになっています。
金属パーツは錆び、塗装は退色、ひび割れ、輝きは無く、ぶつけたり、引っかいたり、擦れたりの傷だらけ、下地の木も見えてきてたりします。
まずは、ギターを60年間弾くとどの様な見た目になるか、ご覧ください!
いかがでしょうか?ボロボロですね~!
これが何千万円のくすんだ輝きです!!
そこから、数千万円のギターを買えない庶民ギタリストの思考が下記のようになっています。
① 60年前のヴィンテージギターは材料も良く、大量生産ではないので作りも丁寧で音が良く価値がある
↓
② 60年も経っているので塗装もはがれ、見た目はボロボロ
↓
③ ボロボロのギターは格好いい
↓
↓
④ 新品でもいいから、ボロボロのギターが欲しい!!!!
という、常人には良く分からないであろう、何段論法かの思考になっているギタリストが非常に多いです。
そこでギターのメーカーさんは考えます。
『見た目だけでもヴィンテージ風のボロボロギターを作ろう!』
そうです、本来は古いギターは音が良い。という所から始まったボロボロギターに憧れるあまり、『ボロボロのギターが欲しい!』という何段階か飛び越えたニーズが生まれているのです。
新品ギターをあらゆる手法を使って傷つけ、劣化させ、汚れさせ。。。
塗装も傷だらけで、中には塗装が剥げて木材がむき出しになっている『新品ギター』を作ります。
これをレリック(エイジド)ギターと言います。
そして今度は、“レリックにするのがリアルに滅茶上手な職人”が生まれ、その人が作るボロボロの新品ギターに付加価値がついて数百万円の価値を持つ。。。
新品の綺麗なギターが30万円~50万円で買えるとすると、それをわざわざボロボロにしたギターが100万円~600万円と、これまた付加価値で凄い値段になって来ています。既にレリックギターでさえ庶民の手が届かなくなりつつあります。
もはや、何が正義なのか分からなくなってきます。。。
実はワタクシ。。。自分で言うのもなんですが。。。このレリック加工の技術も中々の腕前を有しておりまして、自分のギターもこのエイジド加工を施したりしています。
そう、かくいうワタクシもボロボロのギターに憧れているのです。
ただ、傷つけるのは高級ギターでなければいけません。
安物ギターを傷つけた所で、ボロボロの安物ギターにしかなりません。
買えば数十万円もする高級ギター、本来は傷一つ付いただけでも涙を流して悲しむものです。
それをわざわざボロボロにするのは大変な勇気がいります。もしかしたら失敗して使い物にならなくなるかもしれません。そこは勇気を持ってやるしかありません。
数年前の作業ではありますが。。。。
ワタクシの場合、ギターコレクションの中から、こちらの高級ギターをレリック改造の為に抜擢しました! 若かりし頃、コツコツと真面目にパチンコ屋さんに通って、一生懸命に貯金したお金で購入した高級ギターです。
高級家具のようなゴージャスなギター。既にこれ自体年代物となっていますが、まだまだ美しいです。
メイプルの虎目と言われる木目が美しく浮かび上がる、見るからに高級感あふれるギターです。
とても気に入っています。気に入っているからこそ、このギターを清水の舞台から三段跳びで飛び降りる覚悟でボロボロにしました。
着手するまでに何か月か心の準備が必要でした。
そして。。。。。。。エイジド加工の結果。。。。。。
こうなりました。。。。
『きっったねぇ~~~!!!』
という言葉が良く似合う、美しかった姿が思い出せない程、無残にボロボロで格好良くなりました。
もう少し細かくご紹介しましょう!
・・・・・まだ読んでくれている方、いますか~???
また、マニアック過ぎて誰も付いて来てくれていない気がしますが、続けます!
ヴィンテージギターの塗装は長年の温度変化で膨張と収縮を繰り返して割れ、無数の線が入っています。あとは60年間使ったらどこに傷がつくのか。。。どんな傷がつくのか想像力を膨らませながら(←これが大事)、トンカチで叩いたり、ドライバーで叩いたり、こすったり、削って綺麗な木の下地が見えた所は着色て古い色にしたり。。。。丁寧に丁寧にボロボロにしていきます。
こりゃ人件費掛かるな。。。という作業です。
↓60年使った風の見た目です。
ワタクシは、塗装を冷却スプレーで急激に凍らせてから、ヒートガンで熱を加えて急激な温度変化によって塗装を割ります。
温度変化で割れるという事実に変わりはなく、見た目は本物と遜色なく、同じようになります。あと細かい傷はナイフで手描きします。
そしてベルトのバックルが当たる裏側も入念に、ホンモノのベルトのバックルを何百回も叩きつけて傷つけます。
プラスチックパーツは割ってみたり、サンドペーパーや鋭利なもので削って、その削り溝にインクを刷り込んで汚れと経年感を出します。
金属パーツは弦の流れに沿って腐食液で錆びを浮かせます。
はい、マニアック過ぎる説明はもうこの辺でやめておきます。
ホンモノよりホンモノっぽいオンボロさ加減になりました。
ワタクシ的には数億円ギターに負けないルックスのボロボロ具合、ゴージャスレリックギターが出来ました。
完璧です。
ホンモノを知る方はきっと笑われる事でしょう。
完全な自己満足の世界です。でも趣味ってそんなもんですよね!!笑